

井上雄彦先生が向き合う車椅子バスケットボール。『リアル』を描くことに対する覚悟や決意は、痛いほど伝わってくる (C)若林広称 (スウィープ☆)
「このキャンプで得る事は大きいものがあると思うので、ひとつもあますことなく持ち帰ってください」。
今年で7回目を迎える車椅子バスケットボールの『Jキャンプ』。取材のため、山口県スポーツ交流村を訪れた井上雄彦は参加者を前に、こう挨拶した。短い言葉のなかに、彼のさまざまな想いが込められていることは容易に察しがついた。
車椅子バスケとは、スピード、フィジカル、タクティクス、すべての要素を必要とした、アスリートスポーツだ。しかし、あえてこの競技が他のスポーツと異なる点を挙げるとすれば、プレーをする誰もが障害によって一度は挫折に直面し、それを乗り越えている点だろう。勝利とは、単に試合で勝つことだけを意味するのではないのだ。
それゆえ、選手たちが持つメンタルは、時として異常な強さを発揮する。
今回の『Jキャンプ』を主催する及川晋平は、この競技で日本の頂点に立つことを目指しているが、当然、チームトレーニングの厳しさも尋常ではない。その点に触れたとき、彼は「皆、何かしらの苦労を乗り越えたんだから、もう一回くらい乗り越えられるよ」と話してくれたことがあった。
フィジカルとメンタル。その両者がハイレベルで調和した状態をキープすることは、一流のアスリートでも至難の業だ。まして、車椅子バスケという世界に挑んでいる選手たちの場合、肉体と精神は密接かつ複雑に絡み合い、よりクリアなかたちでプレーのパフォーマンスに影響を及ぼす。ここに、井上雄彦が「描きどころ」と語り、車椅子バスケットボールを追いかける理由がある。
漫画『リアル』では、自身の取材を裏づけとした過酷な体験や複雑な心理描写がしばしば描かれている。仮に、それが多くの人にとって目を背けたくなるほど残酷な現実でも、井上雄彦はそれと向き合うことをやめないだろう。今回、話を伺うにつれ、『リアル』を描くことに対する、彼の覚悟や決意のほどは痛いほど伝わってきた。







